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富山地方裁判所 平成7年(ワ)23号 判決 1999年12月13日

原告

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

渡邉元尋

外一一名

被告

伊藤正一

右訴訟代理人弁護士

山根彬夫

神谷信行

鈴木啓文

主文

一  被告は、原告に対し、二七万八一〇〇円及びこれに対する平成四年二月一五日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、二六三万四一四九円及び内

1  二〇万〇三四七円に対する平成四年二月一日から

2  二〇万四八三五円に対する平成四年二月一日から

3  二三万六二五六円に対する平成四年四月一日から

4  二四万二三〇〇円に対する平成五年四月一日から

5  二四万五八八三円に対する平成六年四月一日から

6  二四万八六七〇円に対する平成七年四月一日から

7  二九万三五一五円に対する平成八年四月一日から

8  二七万九二九五円に対する平成九年四月一日から

9  二九万九三六〇円に対する平成一〇年四月一日から

10  三〇万六四二〇円に対する平成一一年四月一日から

それぞれ支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨

2  被告は、原告に対し、五三一万一一〇〇円及びこれに対する左の(一)ないし(一〇)記載の金員を支払え。

(一) 内三八万八五〇〇円について、平成元年四月二日から平成四年一月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成四年二月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(二) 内三九万五八〇〇円について、平成二年四月二日から平成四年一月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成四年二月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(三) 内四八万一九〇〇円について、平成三年四月二日から平成四年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成四年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(四) 内五一万六二〇〇円について、平成四年四月二日から平成五年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成五年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(五) 内五一万二八〇〇円について、平成五年四月二日から平成六年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成六年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(六) 内五二万〇四〇〇円について、平成六年四月二日から平成七年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成七年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(七) 内六二万一三〇〇円について、平成七年四月二日から平成八年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成八年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(八) 内五八万九三〇〇円について、平成八年四月二日から平成九年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成九年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(九) 内六三万四五〇〇円について、平成九年四月二日から平成一〇年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成一〇年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

(一〇) 内六五万〇四〇〇円について、平成一〇年四月二日から平成一一年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成一一年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録記載(1)ないし(3)の各土地(以下、それぞれ「本件土地(1)」、「本件土地(2)」、「本件土地(3)」という。)は、いずれも富山森林管理署(平成一一年二月までは富山営林署)が管理する国有林野であり、別紙物件目録記載(4)の土地(以下「本件土地(4)」という。)は、中信森林管理署(平成四年二月までは大町営林署、平成四年三月から平成一一年二月までは松本営林署)が管理する国有林野である。

被告は、本件土地(1)ないし(4)上に山小屋(登山者の宿泊、休憩等のための建物及び付属設備)を所有して、これを経営している。

2  本件土地の使用許可

(一) 富山営林署長は、昭和六一年三月一七日、被告に対し、本件土地(1)ないし(3)の各土地につき、次の条件により使用を許可し、これを引き渡した。

(1) 使用許可期間 昭和六一年四月一日から昭和六四年三月三一日まで

(2) 昭和六一年度(昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日まで)の使用料七万四一〇〇円(本件土地(1)ないし(3)のそれぞれの使用料の合計額)

(3) 昭和六二年度(昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日まで)の使用料及び昭和六三年度(昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日まで)の使用料は、各年度ごとに算定する。

(4) 使用料は、富山営林署長の発行する納入告知書によって納付期限までに納付しなければならない。

(5) 使用料を納付期限までに納付しない場合は、その翌日から納付の日まで年18.25パーセントの割合により算定した延滞金を支払う。

(二) 大町営林署長は、昭和六一年四月一日、被告に対し、本件土地(4)につき、使用許可期間を昭和六一年四月一日から昭和六四年三月三一日まで、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの使用料を一万〇六〇〇円、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの使用料を一万二二〇〇円、昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日までの使用料を一万四一〇〇円として、使用を許可し、これを引き渡した。

3  使用料の不払

富山営林署長は、平成四年一月三一日、別紙使用料額記載のとおり、本件土地(1)ないし(3)の昭和六二年度の使用料合計額一一万一二〇〇円及び昭和六三年度の使用料合計額一六万六九〇〇円につき納付期限をいずれも平成四年二月一四日とする納入告知書を送達したが、被告はこれを支払わない。

4  不法占拠

(一) 被告に対する本件土地(1)ないし(4)の使用許可期間は、平成元年三月三一日をもって終了したが、被告は、同年四月一日以降も、本件土地(1)ないし(4)上に建物(山小屋)を所有して、これを占有している。

(二) 右不法占拠により原告が被った損害は、別紙損害額記載の金額を下らない。

別紙損害額記載の各損害額のうち、本件土地(1)ないし(3)の損害額は、昭和六一年度の本件土地(1)ないし(3)の使用料に、本件土地(1)ないし(3)の周辺山岳地に存在する類似同業者の昭和六一年度の山小屋敷地使用料を基準とした各年度の使用料の伸び率を平均値を乗じて算出したものである。また、本件土地(4)の損害額は、取引事例を比準して当該国有林野の時価に一定倍率を乗じて算定する方式又は相続税課税評価額相当額に一定倍率を乗じて算定する方式によって算出した使用料額である。

5  よって、原告は、被告に対し、次のとおりの支払を求める。

(一) 本件土地(1)ないし(3)の昭和六二年度分と六三年度分の使用料合計二七万八一〇〇円及びこれに対する、納付期限の翌日である平成四年二月一五日から支払済みまで、使用許可条件に基づく年18.25パーセントの遅延損害金

(二)(1) 本件土地(1)ないし(4)を不法占拠したことによる、不法行為に基づく損害賠償請求として、不法占拠期間中の各年度ごとの使用料相当損害金合計五三一万一一〇〇円

(2) (1)の継続的不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金として、次のとおりの金員

① 三八万八五〇〇円(平成元年度分の使用料相当損害金)について、平成元年四月二日から平成四年一月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成四年二月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

② 三九万五八〇〇円(平成二年度分の使用料相当損害金)について、平成二年四月二日から平成四年一月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成四年二月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

③ 四八万一九〇〇円(平成三年度分の使用料相当損害金)について、平成三年四月二日から平成四年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成四年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

④ 五一万六二〇〇円(平成四年度分の使用料相当損害金)について、平成四年四月二日から平成五年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成五年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

⑤ 五一万二八〇〇円(平成五年度分の使用料相当損害金)について、平成五年四月二日から平成六年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成六年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

⑥ 五二万〇四〇〇円(平成六年度分の使用料相当損害金)について、平成六年四月二日から平成七年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成七年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

⑦ 六二万一三〇〇円(平成七年度分の使用料相当損害金)について、平成七年四月二日から平成八年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成八年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

⑧ 五八万九三〇〇円(平成八年度分の使用料相当損害金)について、平成八年四月二日から平成九年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成九年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

⑨ 六三万四五〇〇円(平成九年度分の使用料相当損害金)について、平成九年四月二日から平成一〇年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成一〇年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

⑩ 六五万〇四〇〇円(平成一〇年度分の使用料相当損害金)について、平成一〇年四月二日から平成一一年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員及び平成一一年四月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実はいずれも認める。同4(一)の事実は認め、同(二)の事実は否認する。

三  被告の主張

1  使用料算定の違法

被告が本件土地(1)ないし(3)につき請求している使用料は、レクリェーション事業の用に供するため国有林野を使用許可する場合に当該レクリェーション事業の売上高及び当該売上高の発生に寄与した設備投資額をもとに使用料を算定する方式(以下「収益方式」という。)により算定されたものであるが、収益方式による使用料算定は次のとおり違法なものである。

(一) 収益方式は、次のとおり不当なものであるから、収益方式により使用料を算定するのは、行政庁の裁量権を逸脱したものであり、違法である。

(1) 収益方式は、以下のような山小屋の公共性と山小屋経営者の公共奉仕を適切に評価していない。

① 山小屋経営者は、山小屋の開設については筆舌に尽くせない苦労をしており、特に、最奥地にある被告の山小屋建設の苦労は他の山小屋に比べて大きい。被告を初めとする山小屋経営者は、水、電気、燃料のライフラインを全て自給している。

② 被告を初めとする山小屋経営者は、登山者の生命身体の安全確保や環境保護のため、莫大な私費を投じて、遭難救助、診療所開設、登山道の開削、し尿処理等、極めて多くの公共的業務を行っている。

③ 被告は、登山者と山小屋スタッフの生命保護や物資輸送等のため、莫大な私費を投じ、昭和二〇年代から一〇年がかりで登山道開削の調査をし、昭和三一年に登山道を開通させ、遭難救助等の利用に供してきた。

④ 山小屋経営者の遭難救助の苦労は筆舌に尽くし難いものであり、自らの生命の危険すらある命懸けのものである。不幸にして遭難者を出してしまった場合でも、捜索、遺体収容について山小屋の果たす役割は大きい。

⑤ 三俣山荘では、昭和三九年から現在まで、毎年夏の営業時期に岡山大学医学部から医師・看護婦を呼び、登山者に医療を提供している。この診療所について、被告は、医薬品のヘリコプターの荷揚げ費用と診療所の正式班員四名の宿泊費・食費を負担している。

⑥ 被告は、平成九年から、し尿をヘリコプターで下界へ降ろして処理し始めたが、平成九年には、ヘリコプター輸送費、くみ取り料等合計で三五〇万円を支出した。被告は、平成一〇年に、そのままヘリコプターで吊り下げられるタンクを自費で開発し、環境保護のためにし尿搬送回数を大幅に減らすことに成功した。

⑦ 以上のような公共的な業務に対し、林野庁側からの補助は皆無である。

(2) 山小屋では、山小屋施設の維持以外に、食料の輸送、水の自給、道標その他の整備、診療所の維持、し尿処理その他に莫大な費用がかかり、その経費率は九〇パーセントに及ぶ。しかし、収益方式では、この高い経費率が読み込まれていない。

また、本件で林野庁のとる収益方式は、「設備投資額の六〇パーセント」を損益分岐点率としているが、会計学上の損益分岐点率は、常に変動するものであって、固定された数値ではないし、六〇パーセントという数字は、日本のサービス業(一部上場企業)における統計数字(平均値八九パーセント)と著しい格差がある。

(3) 環境庁管轄下の国有地の使用料については、土地価格をもとにした定額方式が採られており、値上率上限を1.2倍にとどめ、これを三年据え置くなど、急激な増額が生じないように配慮されている。ところが、本件で林野庁のとる収益方式によると、短期間に一〇倍以上の増額となる場合があるほか、環境庁管轄下の国有地の使用料との間に三倍以上の格差が生じている場合がある。

このような環境庁の取扱いとの間の著しい格差は、平等原則違反である。

(4) 林野庁はアメリカ合衆国における制度を参考にしたと主張しているが、そもそもアメリカ合衆国においては、日本の山小屋のような施設は存在しないし、収益方式による使用料が徴収されているのは開発型リゾート地域にある宿泊施設であるから、日本の山小屋について収益方式を導入するのは不当である。

(5) 国有林野の使用料は、①地方公共団体で当該土地の固定資産評価額を出し、それに対する公租公課を算出し、これに民間以下の倍率を乗ずる方法によるか、あるいは、②全国の土地価格の上昇率、地代上昇率、消費者物価上昇率等を総合的に勘案し、民間の値上げ率以下の範囲内において、使用料増額率を決定し、前の使用料にその増額率を乗じて使用期間満了ごとに段階的に増額する方法により算出されるべきである。

(二) 収益方式は、営業実績報告書の提出義務付けを伴うものであるが、これは事業者の営業上のプライバシー権を権力的に制約するものであるから、法律の根拠が必要であるにもかかわらず、法律の規定は何ら存在しない。

したがって、このような提出強制を伴う収益方式は違憲・違法であるから、収益方式による使用料算定は違法である。

2  供託

被告は、本件土地(1)ないし(4)について平成元年になされた使用不許可処分の取消等を求める行政訴訟を提起し、右訴訟において、前記1と同様、収益方式の違法性を主張して争うとともに、これについて司法判断を受けるまでの間被告において相当と考える使用料を供託し続けてきた。地代増額紛争の場合に、司法判断がなされるまでの間借り主が相当と考える金額を供託していれば債務不履行責任が生じないことと対比すると、被告のした右供託も有効というべきである。

被告は、昭和六二年度分以降現在まで、本件土地(1)ないし(4)について被告において相当と考える使用料を供託し続けている。

3  推計の基礎の欠如

原告が本件土地(1)ないし(3)の使用料相当損害金の推計の基礎としている各山小屋は、被告の山小屋と立地条件が著しく異なるにもかかわらず(①到達まで二日を要する被告の山小屋と一日で行ける山小屋の違い、②営業期間の違いと春・秋の登山者数の違い、③山小屋の施設増設の有無、規模の違い)、これを捨象して推計課税的な方法で被告の山小屋の収入を推計するのは不当である。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1ないし3の各事実及び同4(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因4(二)(損害額)について

(一)  土地の不法占拠により生じる損害の額は、不法占拠期間中の当該土地の使用収益の対価、すなわち、使用料相当額とするのが相当である。

(二)(1)  そこで、本件土地(1)ないし(3)の使用料につき検討するに、前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、不法占拠以前から現在まで、本件土地(1)ないし(3)を山小屋敷地として使用していること、被告が使用許可に基づき使用していたときの最後の使用料は昭和六三年度分であること、本件土地(1)ないし(3)周辺の国有林野において、昭和六三年から平成一〇年までの間、被告と同様に山小屋敷地として使用する目的で国有林野の使用許可を受け使用料を支払っている者が多数いること及び国有林野を山小屋敷地として使用許可する場合の使用料は一年ごとに定められていることが認められ、これらの事実からすれば、被告の昭和六三年度分の本件土地(1)ないし(3)の使用料に、本件土地(1)ないし(3)周辺で山小屋敷地として使用許可された国有林野における昭和六三年度分の使用料を基準としたその後の各年度の使用料の変動率を乗じて、本件土地(1)ないし(3)の不法占拠期間中の各年度ごとの使用料相当額を算出し、この総和をもって、不法占拠期間中の使用料相当損害額と認めるのが相当である。

そして、証拠(甲一、五ないし三〇<枝番号を含む>、三一、三二)及び弁論の全趣旨によれば、本件土地(1)ないし(3)周辺で山小屋敷地として使用許可された国有林野二六か所の昭和六三年度から平成一〇年度までの各年度の使用料及び右使用料全体の昭和六三年度を基準とした各年度の変動率は、別紙周辺国有林野の使用料の推移記載のとおりであり、被告の昭和六三年度の本件土地(1)ないし(3)の使用料に、右変動率を乗じて算出した使用料相当損害額は、別紙使用料相当損害額記載のとおりである。

(2) また、弁論の全趣旨によれば、本件土地(4)の損害額は、別紙損害額記載の損害額のうち、本件土地(4)についての損害額記載のとおりであることが認められる。

(三)  よって、被告が本件土地(1)ないし(4)を不法占拠したことにより生じた損害の額は、次の(1)ないし(10)の総和であると認められる。

(1) 平成元年度分の使用料相当損額

二〇万〇三四七円

(2) 平成二年度分の使用料相当損額

二〇万四八三五円

(3) 平成三年度分の使用料相当損額

二三万六二五六円

(4) 平成四年度分の使用料相当損額

二四万二三〇〇円

(5) 平成五年度分の使用料相当損額

二四万五八八三円

(6) 平成六年度分の使用料相当損額

二四万八六七〇円

(7) 平成七年度分の使用料相当損額

二九万三五一五円

(8) 平成八年度分の使用料相当損額

二七万九二九五円

(9) 平成九年度分の使用料相当損額

二九万九三六〇円

(10) 平成一〇年度分の使用料相当損額 三〇万六四二〇円

合計 二五五万六八八一円

3  不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について

(一)  本件では、原告は、各年度ごとの使用料相当損害額のそれぞれを基準とする遅延損害金を次の(1)、(2)の合計する方法により算定し、右それぞれの遅延損害金の総額をもって、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金として請求している(請求原因5(二)(2))。

(1) 当該年度の経過後の特定の日における既発生の遅延損害金を、当該年度の使用料相当損害額に対する当該年度開始日の翌日から右特定日までの期間を二分の一した日数分について民法所定の年五パーセントの割合により算定する。

(2) 右特定の日以降の遅延損害金は、当該年度の使用料相当損害額に対する(1)の特定日の翌日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員とする。

(二)  ところで、継続的な不法行為においては、理論的には、損害賠償請求権は日々発生し、その遅延損害金も、右請求権発生時から日々発生するものであるから、権利者は、日々発生する損害額とそれに対応する遅延損害金を請求することができる。

しかし、本件のように、被告の不法占拠により生じた損害の額は不法占拠期間中の年度ごとの使用料相当損害額の総和であると考えられる場合に、便宜的に、前記(一)(1)、(2)の方法により算定した遅延損害金を請求することは、損害及び遅延損害金が日々発生するとの考え方に基づいて遅延損害金を算定した場合の金額の範囲内となるものであるから、一部請求として認めることができると解される。

(三)  本件で、前記2の各年度の使用料相当損害金を基準として、前記(一)(1)にあたる部分をそれぞれ計算すると、次のとおりである(円未満切り捨て)。

(1) 平成元年度分の使用料相当損害額二〇万〇三四七円について、平成元年四月二日から平成四年一月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

一万四二〇二円

(2) 平成二年度分の使用料相当損害額二〇万四八三五円について、平成二年四月二日から平成四年一月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

九三九九円

(3) 平成三年度分の使用料相当損害額二三万六二五六円について、平成三年四月二日から平成四年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

五九〇一円

(4) 平成四年度分の使用料相当損害額二四万二三〇〇円について、平成四年四月二日から平成五年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

六〇四〇円

(5) 平成五年度分の使用料相当損害額二四万五八八三円について、平成五年四月二日から平成六年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

六一三〇円

(6) 平成六年度分の使用料相当損害額二四万八六七〇円について、平成六年四月二日から平成七年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

六一九九円

(7) 平成七年度分の使用料相当損害額二九万三五一五円について、平成七年四月二日から平成八年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

七三三二円

(8) 平成八年度分の使用料相当損害額二七万九二九五円について、平成八年四月二日から平成九年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

六九六三円

(9) 平成九年度分の使用料相当損害額二九万九三六〇円について、平成九年四月二日から平成一〇年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

七四六三円

(10) 平成一〇年度分の使用料相当損害額三〇万六四二〇円について、平成一〇年四月二日から平成一一年三月三一日までの期間を二分の一した日数分の年五パーセントの割合による金員

七六三九円

合計 七万七二六八円

二  被告の主張について

1  被告は、収益方式による使用料算定が違法である旨主張する。これは、使用料の算定方法が違法であることを理由に、当該使用料支払義務が存在しないことを主張しているものと解されるが、右主張はとり得ない。その理由は次のとおりである。

本件土地(1)ないし(3)について、原告は、昭和六一年に富山営林署長より使用許可処分を受け、昭和六二年度及び昭和六三年度の使用料は各年度ごとに算定するとされていたところ、昭和六二年度及び昭和六三年度の使用料は、右許可処分に基づき平成四年一月三一日に富山営林署長によりなされた納入の告知(争いのない事実)により初めて納付すべき金額・納付期限等が確定し、これにより被告の使用料納付義務が具体的に発生したものであるから、右納入の告知は行政処分であるといえるところ、行政処分は、権限のある行政庁若しくは抗告訴訟により取り消された場合、又は、右処分に重大かつ明白な瑕疵があって当然に無効とされる場合の他は、その効力を否定することはできない。そして、本件では、右納入の告知が権限のある行政庁又は抗告訴訟により取り消されていないことは明らかであり、かつ、右納入の告知に重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。

したがって、右納入の告知に係る使用料支払義務の不存在を主張することはできないというべきである。

2  被告は、昭和六二年度分以降現在まで、本件土地(1)ないし(4)について被告において相当と考えられる使用料を供託し続けていると主張する。そして、証拠(乙四、五<いずれも枝番号を含む>)によれば、被告が、本件土地(1)ないし(3)の昭和六二年度の賃料として八万七五〇六円を供託したのを初めとして本件土地(1)ないし(3)の賃料として毎年金員を供託し続けていること及び本件土地(4)についても同様に、平成元年から賃料として毎年金員を供託し続けていること(なお、いずれの供託においても、前記認定にかかる、本件土地(1)ないし(3)の使用料及び本件土地(1)ないし(4)の損害金の額には足りない。)が認められる。

しかしながら、弁済供託は、その消滅させるべき債務の本旨に従ってなされることを要するところ、原告による右供託は、いずれも、賃料債務として供託されたものであって、国有林野の使用許可処分に係る使用料納付義務ないし不法占拠による損害賠償債務として供託されたものではない上、前記認定にかかる、本件土地(1)ないし(3)の使用料及び本件土地(1)ないし(4)の損害金の額をみたすものではないのであるから、債務の本旨に従ってなされた弁済供託とはいえず、債務消滅の効果は生じないというべきである。

被告は、収益方式の違法を争って司法判断を受けるまでの間の被告の供託を有効と解すべきと主張するが、本件は、未払使用料及び使用料相当損害金の請求であるから、債務の本旨に従った弁済供託といえない以上、被告が別件の行政訴訟で収益方式の違法を争っているからといって本件で被告の供託を有効と目することはできない。また、使用不許可処分により被告に本件土地(1)ないし(4)の占有権原がない以上、地代増額請求の場合の賃料供託と同視することもできない。

3  被告は、原告が本件土地(1)ないし(3)の使用料相当損害金の推計の基礎としている各山小屋は、被告の山小屋と立地条件が著しく異なるにもかかわらず、これを捨象して推計課税的な方法で被告の山小屋の収入を推計するのは不当であると主張する。

しかしながら、本件では、前記のとおり、使用料相当損害金の算定にあたり、従来の被告の使用料に一定の変動率を乗じて使用料相当額を算出するために、他の山小屋の使用料の年度ごとの変動率を算出しているのであって、被告の主張するような、他の山小屋の収入をもとに被告の山小屋の収入を算出しているものではない。そして、二六か所の山小屋敷地のサンプルをとれば、個別の差異は平均化され、使用料の年度ごとの変動率は、損害額算定に使用することができる蓋然性を有するものと認められる。

三  結論

以上によれば、原告の請求は、本件土地(1)ないし(3)の未払使用料二七万八一〇〇円及びこれに対する遅延損害金並びに本件土地(1)ないし(4)についての不法行為に基づく損害金二五五万六八八一円及びこれに対する遅延損害金(確定遅延損害金額七万七二六八円及び未確定遅延損害金)の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・德永幸藏、裁判官・源孝治、裁判官・冨上智子)

別紙<省略>

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